日本の会社は現金預金を貯めすぎるといわれています。
日銀が発表した資金循環統計によると、企業が保有する現金預金の2016年12月末の残高は244兆円と高止まりしています。
会社が眠らせている現金預金を積極的に投資に使うか、あるいは株主に還元すれば、日本経済は活性化するというのです。
現在、預金利率はほとんどゼロで、現金預金を積み増すことの収益的メリットはありません。
会社内で成長のための投資に回せないキャッシュは株主に返還しろ、というのが株主側の論理です。
それに対し、「過少な内部蓄積では、将来、赤字を出したときすぐ破綻に追い込まれかねない」と反論しても、「赤字を垂れ流すような会社は市場から撤退すればいい」と軽く受け流されてしまいます。
株式会社の原則からすれば、それはそのとおりなのですが、会社を株主ではなく、そこで働く社員の集合体として見ると、また違った姿が見えてきます。
雇用の流動化が十分とはいえない日本では、これまで働いていた会社が倒産すると、社員は次の仕事を探すのは容易ではありません。
社員の側からみれば、多少業績が悪くなっても、持ちこたえられる会社であってほしいというのが正直な心情であり、会社に蓄積される自己資本とキャッシュは厚いに越したことはありません。
それは単に社員だけのためではなく、自分の会社に安心感を持てるから、会社のために一生懸命働き、会社を成長させることにより長期的に株主にも報いることができる、というのが内部蓄積派の主張です。
成熟経済に移行し、投資に使い切れない余剰キャッシュが出てくると、そのキャッシュを株主還元として社外に流出させるか、あるいは、まさかのときに備えて社内留保するかの二者択一を迫られます。
株式市場は当然、株主還元を歓迎します。
最近話題の社外取締役の拡大も、こうした議論と無縁ではありません。
社員からの持ち上がりの取締役ばかりだと、不要に内部蓄積してしまうという懸念があるからです。
たとえば、近年業績不振で赤字を計上し続けているが、過去の蓄積は膨大な会社があるとします。
所属する社員からすれば、手元資金が豊富で容易につぶれない会社であることはありがたいのですが、株主から見れば無駄に資金を所有しているだけに見えます。
どちらが正しいかは今後のその会社の業績が決めます。
このまま業績不振を続け、蓄積を食いつぶしたまま浮上できないのであれば、厚い蓄積は社員に対して単に過保護だったということになりますし、苦難のときを経て、高収益会社に復活し、再度株価の上昇につなげることができれば、内部蓄積は決して社員に対してだけの栄養剤ではなく、長期的に株主のためにもなっていることを示すことができます。
現金預金を積み増すのは、成長投資とはかけ離れた、無駄な投資のようにも見えますが、「安心を買っている」と積極的に考えることもできると思います。
ただ、こうした考え方はグローバル基準からすればあまり普遍的とはいえず、瑞穂の国特有の資本主義かもしれませんが。
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)
記事提供:ゆりかご倶楽部
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