貸借対照表の資産は取得価額で表示されますが、実際の経営では回収可能価額が重要です。
受取手形や貸付金などの金銭債権は取得価額と回収可能価額は同一ですが、金銭債権以外の資産は、回収可能価額は取得価額とは違いますから、回収可能価額を別途把握しておかなければなりません。
回収可能価額について減損会計を例に説明します。
減損会計では、資産価値が大きく下落したときは、貸借対照表価額(取得価額)を回収可能価額まで切り下げることが規定されています。
この場合の回収可能価額は「正味売却価額と使用価値のいずれか高い方」と定義されています。
正味売却価額とは他人に売った場合に獲得できる金額であり、使用価値とは自分がそのまま使用して得られるときの将来キャッシュフローの現在価値です。
企業が経済合理的に行動する限り、有利な方を選択するはずですから、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方が回収可能価額となります。
ただ、その重点の置き方はインフレ時とデフレ時で異なってきます。
インフレ状況では物の値段は上昇傾向にあり、資産の移転は容易です。
資産は持っているだけで価値を増やします。
この状況では使用価値より正味売却価額が重要です。
一方、デフレ状況では物の値段は下がります。
資産は動きにくく、資産売却は簡単ではありません。
所有している資産をどのように活用するかの使用価値の重要性が増します。
自分で資産を利用して、いくらのキャッシュフローを生んでいるかを常につかんでおかなければなりません。
つまり、インフレ時には正味売却価額、デフレ時には使用価値が重要になるのです。
バブル崩壊後、長くデフレが続きました。
デフレ時は、資産は持っているだけでは価値を生みません。
売却価額は下がるのですから、単に保有しているだけでは重荷が増えていきます。
どう利用しているかが重要です。
まったく利用していない遊休資産は将来キャッシュフローをまったく生まないのですから、たとえ二束三文でもキャッシュになるなら処分すべきです。
事業に利用している資産も、資産が生み出す将来キャッシュフローの現在価値を常に把握しておかなければなりません。
もし、他の人が、現在の自分が利用して獲得できるキャッシュフローの現在価値以上の値段で資産を買いたいというなら、売るのが合理的です。
それは一企業としての損得だけではなく、社会にとっても望ましいことです。
なぜなら、資産を買おうとする人が高値を付けるのは、その人がその資産を取得して活用すれば、もっと多くのキャッシュフローを生み出せるという自信があるからです。
それは現在の所有者より、その資産を有効に活用できるということであり、社会全体にとっても有用だからです。
アベノミクスにより、かつてのデフレからインフレに転換しようとしています。
しかし、そのインフレ率はかつての高度成長時代のような二桁といったものではなく、1%〜2%程度なマイルドなインフレです。
したがって、インフレだからといって、売れば儲かるからといった正味売却価額に期待した安易な考えで資産を取得するのは危険です。
利用することで獲得できるキャッシュフロー、つまり使用価値で資産を考えるという堅実な考えを捨てるべきではありません。
(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)
記事提供:ゆりかご倶楽部
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