T 平成23年7月までに発布された法令等
前月号で述べました「つなぎ法案」の中の @政策税制の拡充等の切り出し法案 A期限切れ租税特別措置法の延長等法案 の2つは、本年6月22日に国会にて成立し、同6月30日に公布され、かつ、施行されています。
残る「税制改革の一環をなす改正(当初の税制改正案を修正し、在置する法案)」に対する国会の審議は、
殆ど進んでおらずいつ成立するかの見通しもたっていない状況です。
そこで、その合間を利用して最近話題になっている実務問題にふれてみることとします。
○ 役員の分掌変更の場合の退職給与
「役員の分掌変更の場合の退職給与」いわゆる「打切り支給に係る役員退職給与」は、平成19年3月13日に、「例え退職後役員給与が50%以上の減少があったとしても経営上主要な地位を占めている者は、退職の事実があった者とは認めない」という趣旨の下に、打切り支給に係る法人税基本通達を次のように定めています。
(役員の分掌変更等の場合の退職給与) |
改正前(法人税法基本通達9-2-23) |
改正後(法人税法基本通達9-2-23) |
常勤役員が非常勤役員になったこと(常勤勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く) |
同左 |
取締役が監査役になったこと(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主総会等で法人税法施行令71条1項5号に掲げる要件のすべてを満たしているものを除く) |
同左 |
分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと |
分掌変更等におけるその役員(その分掌変更後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められるものを除く)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと |
通達改正 平成19年3月13日
参考
法人税法施行令71条1項5号 前各号に掲げるもののほか、同族会社の役員のうち次に掲げる要件のすべてを満たしている者
イ 当該会社の株主グループにつきその所有割合が最も大きいものから順次その順位を付し、その第一順位の株主グループ(同順位の株主グループが二以上ある場合には、そのすべての株主グループ。以下この号イにおいて同じ。)の所有割合を算定し、又はこれに順次第二順位及び第三順位の株主グループの所有割合を加算した場合において、当該役員が次に掲げる株主グループのいずれかに属していること。
(1) 第一順位の株主グループの所有割合が百分の五十を超える場合における当該株主グループ
(2) 第一順位及び第二順位の株主グループの所有割合を合計した場合にその所有割合がはじめて百分の五十を超えるときにおけるこれらの株主グループ
(3) 第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計した場合にその所有割合がはじめて百分の五十を超えるときにおけるこれらの株主グループ
ロ 当該役員の属する株主グループの当該会社に係る所有割合が百分の十を超えていること。
ハ 当該役員(その配偶者及びこれらの者の所有割合が百分の五十を超える場合における他の会社を含む。)の当該会社に係る所有割合が百分の五を超えていること。
したがって、保険金等の臨時収入を奇貨として代表取締役の退職を行い退職給与を受領し、役員給与を半
額以下として取締役として従事することがあります。
しかし、その後の職務内容は同様で
@金銭支配は続行する。
A常勤役員の給与は、従来通り自己が決定する。
B従業員の給与・採用も自己が決定する。
等のことから打切り支給役員退職金が税務調査により否認される事例が生じました。
その後当該否認に伴う裁決・判決等から打切り支給役員退職金のあり方がやや明確になってきたということができますので私の見解も混えて説明したいと思います。
第1に「退職」の概念については、法律上の定義はありません。
通説としては「従来の職務を離脱すること」と解され、必ずしも役員の退任又は辞任のみを意味するものではありません。
したがって、職務が激変し再度当該職務については退職金を支給しないという意味も兼ねて「打切り支給としての役員退職金」の通達が発遣されたものと思われます。
第2に、退職金は当該職務の終了、労務の対価の報償ないし一部の後払い、及び一時金としての性質を有するものといわれています。
第3に、役員退職金については株主総会の承認が必要ですが同族会社の株主総会には、その金額についてのチェック能力に欠けるため、せめて債権者保護の見地からの退職金額としての配慮が必要であると考えられます。
したがって、当該職務の終了、職務分掌の激変、相当な役員退職金以外は、分掌変更においても認められません。
特に改正通達後は、分掌変更後の役員給与を50%以下にしただけで役員退職金が認められるものではなく、当該退職金が当該職務の終了に基づくものであるかどうかが更に重要になってきたといえます。
エッサムファミリー会 会報(平成23年8月号)より
法学博士・税理士右山昌一郎
記事提供:ゆりかご倶楽部
ホームページ管理者 追加加筆有り
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